ハナヤ勘兵衛 桑田敬司氏(くわた けいじ)

2005年から2011年まで掲載していました「芦屋人たちの軌跡」のコーナーが復活いたしました。今後、不定期で芦屋で活躍中の人に注目し、インタビューした内容をご紹介していきます。
復活の初回は2号線沿い、芦屋川の西にある写真材料店「株式会社ハナヤ勘兵衛」の桑田敬司さんです。来年、創業90年を迎える写真館の4代目にお話を伺いました。
初代、芸術家「ハナヤ勘兵衛」
桑田さんを語るにはまず、写真館「ハナヤ勘兵衛」の前に、芸術写真家「ハナヤ勘兵衛」をご紹介する必要があります。ハナヤ勘兵衛こと、桑田和雄氏は昭和4年に芦屋で写真材料店を開き、翌年には欧米で写真技術を学んだ中山岩太氏らとともに芦屋カメラクラブを立ち上げました。1930年前後に世界的に広がった新興写真という流れで、多重露光やフォトモンタージュという合成写真のような技術を多用し、前衛的な作品をたくさん残されています。写真を記録媒体から芸術として昇華させた時代の先駆けで、阪神間モダニズムを盛り上げた一人として名前があがる人物です。



桑田さんは初代ハナヤ勘兵衛のひ孫にあたります。初代の印象を聞くと「普通のじいちゃんとひ孫ですよ。いつも氷飴をくれたんです」と笑う桑田さん。芸術写真家としてではなく、ごく普通のおじいちゃんと、そのひ孫のほほえましい姿が見えてきます。今でも新聞社や出版社から写真を使用させてください、という依頼が多く、すごい人だったんだと改めて実感されているそう。

1995年1月には芦屋市立美術博物館で「ハナヤ勘兵衛展」が開催される予定でしたが、そこにあの阪神淡路大震災が襲いました。写真店は1階がつぶれてしまい、現像の機材や販売しているカメラなど、すべてがダメになってしまいました。ただ、初代の作品や当時使用していたカメラなどは展示のため美術博物館にすべて預けていたおかげでほぼ無事で、半年後には「ハナヤ勘兵衛展」を開催することができました。
当時高校生だった桑田さんも、店を手伝うために走り回られていたそうです。仮店舗での営業を経て、元の場所での営業を再開するのに3年かかりました。大学生の頃までお店の手伝いをされていた桑田さん。その頃の経験が今の礎になっているのですね。
初代が結成された「芦屋カメラクラブ」は今でも春と秋に市民センターで写真展をするなどの活動が続いています。
本業そっちのけで地域活動

桑田さんは「芦屋カメラクラブ」、「芦屋写真協会」で写真展などの企画や、芦屋市立美術博物館でのお子さん向けワークショップの撮影ボランティア、大好評だった「芦屋子育てフェスティバル」での講演会など、精力的に活動されています。それ以外にも本業とはあまり関係のない芦屋市商工会、芦屋観光協会、芦屋ライオンズクラブ、川西商店会などの活動でも、市内のあちこちを走り回られていて、社員に「本業をやってください」と笑いながら送り出されているのだそう。さすがに「芦屋さくらまつり」や「あしや秋まつり」などの大きなイベントでは撮影されているのでは?「いつも運営スタッフ側で走り回っていて、自分は写真を撮っていないんですよ。必要な撮影はスタッフ任せです」と言われる桑田さんですが、本業そっちのけで活動できることに、スタッフとの信頼関係が垣間見えます。
若い世代への応援
初代は「関西学生写真連盟」を立ち上げて、顧問として大学生をバックアップしていました。当時とても高価だったカメラやフィルムを提供して指導されていたそうです。
現在、4代目の桑田さんも学生たちへの応援を続けられています。「お客様のもう使わないけど捨てるにはしのびない、という中古のカメラを『じゃあ学生さんにあげてもいいですか?』と橋渡ししたり、もう買う人がいない古いカメラを修理をして、学生さんが使ってくれるなら提供したり、使用期限の近いフィルムなども提供しています」
「熱意を持って写真に携わっている方々も年々高齢化しているんです。この若い人への応援が、今後の写真やカメラの業界の盛り上りに繋がってくれたら、と思っています」と言う桑田さん。今後、学生さんたちの中から写真家や素晴らしい作品が生まれてくることを期待したいですね。

芦屋市内の公立の幼稚園の遠足の撮影や卒園アルバムを一手に引き受けていらっしゃるので、芦屋のママさんたちからも「ハナカンさん」と親しまれています。地域のお年寄りから小さなお子さん、阪神間の学生さんにまで慕われている、気さくなお人柄が伝わるお話を聴くことができた時間でした。
<ライター 杉本せつこ>
(株)ハナヤ勘兵衛
- 兵庫県芦屋市前田町3-6 (GoogleMap)
- 0797-31-3902
- 平日8:00~20:00土曜8:00~18:00
- 日曜・祝日
※掲載している情報は、2018.07.30の情報です。
そのため記載内容が、最新のものと異なる場合があります。
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