プライベート・ライアン

戦争映画をご覧になったことがあるでしょうか?戦争という常に死と隣り合わせの極限状態は、人間を描く最高の舞台なのかもしれません。「ナバロンの嵐」や「鷲は舞い降りた」のような冒険活劇の要素が強いものや、「プラトーン」「キリングフィールド」など反戦的なもの、同じ戦争映画でも様々なものがありますが、戦争映画には人間を内面まで描いた良作が数多くあります。この「プライベート・ライアン」もその一本だと思います。
第二次世界大戦、ヨーロッパ戦線で行方不明になっているライアン二等兵を救出するべく、ミラー大尉率いる部隊は敵地の奥深くへと向かいます。ライアンの兄弟が全員戦死したために、軍首脳が彼を無事に母親の下へ帰国させることにしたのです。果たしてこの無謀な作戦は成功するのか?ライアン二等兵はそれほどの犠牲を払って救う価値のある人間なのか?
物語は有名なノルマンディ上陸作戦のオマハビーチから始まりますが、このシーンはありとあらゆる戦争映画の中でも特筆すべき迫力です。観客はまずこの悲惨で壮絶な戦場の映像に圧倒されることになります。このシーンに限らず、本作の戦闘シーンの臨場感は徹底されています。ハンディカメラで撮ったような揺れと記録映画のようなマットな質感の映像は戦場の空気や匂いまでも感じられるようなリアルさで、戦場の緊張感、恐怖感が嫌というほど伝わってきます。この映画では、兵士達は他の戦争映画やアクション映画に見られるような派手で英雄的な行為の結果として死ぬのではありません。理不尽に、無慈悲にその命を散らしていきます。また激しい戦闘シーンの合間にある兵士達の会話ではそれぞれのバックボーンや人間性を推し量ることができ、この映画が単に激しい戦闘シーンを売りにした戦争映画になることを防いでいます。
主演のトム・ハンクスはその実力をいかんなく発揮し、苦悩しながらも断固とした決断力で部隊を率いるミラー大尉を好演しています。マット・デイモン、エドワード・バーンズ、トム・サイズモア達他の出演陣も迫真の演技で戦場の緊張感を伝えています。
監督のスティーブン・スピルバーグはあえて主人公達を英雄的には描かずに、戦場の混乱と恐怖、その中での人間の姿を観客に見せ付けます。この映画の中には戦争を批判するようなセリフは一度も出てきませんが、あまりにもリアルで悲惨な戦場の映像は圧倒的な重さでメッセージを突きつけているように思います。私はこの映画を見て心から「絶対には戦場に行きたくない」と思いました。最初のオマハ・ビーチの激戦をリアルに描き出したことでスピルバーグ監督の目的は半分以上、達成されていたんじゃないでしょうか。
最後に、注意しておかねばならないことがあります。この映画はリアルに戦場を描いた映画ですから、かなり残酷で無残な光景が繰り広げられます。下手なホラー映画など足元にも及ばないショッキングな映像です。
(無論、残酷映像といってもスプラッタ映画などとはその質において、一線を画すものではありますが)ですから、その手の映像に耐えられない方はご覧にならないほうが良いかもしれません。
しかし、あなたがそういう方でないならば、なにかと世界情勢が物騒な昨今、戦争というものを考えるきっかけとしても、本作をご覧になることをお勧めします。
なにしろ未だに世界のあちこちでフーバーな戦争が続いているのですから。
CINEMA DATA
1998年制作
【配給】 | パラマウント&ドリームワークス |
---|---|
【監督】 | スティーブン・スピルバーグ |
【出演】 | トム・ハンクス |
マット・デイモン | |
エドワード・バーンズ | |
トム・サイズ・モア |
パラマウント ホームエンターテイメント ジャパンよりDVD発売中
©Eiga-zaru 2004-2018
※掲載している情報は、2005.08.01の情報です。
そのため記載内容が、最新のものと異なる場合があります。