笑の大学

私達が普段、見ることのできる小説、評論、漫画、ドラマ、映画などは、基本的には全て製作者が自由に制作したものです。現在の日本では表現と発言の自由が認められているからです。しかし、戦時中の日本では国家権力による検閲がありました。全ての出版物や映像、そして演劇も検閲を受けなければならず、世に出る前に国家が不適切と見なした部分は、改変や削除をしなければ出版・上演が許されませんでした。今回はその時代の劇作家と検閲官の攻防(?)を描いた「笑の大学」をご紹介します。
昭和15年秋、戦争へと突き進む日本。劇団「笑の大学」の座付き作家、椿(つばき)は次回公演の台本の検閲を受けるために、警視庁に向かいます。しかし取調室で彼を待ち受けていたのは、心の底から笑ったことがないと豪語し、全くユーモアを理解しない検察官、向坂(さきさか)でした。向坂は次々と椿の台本に無理な注文をつけていきます。情け容赦ない向坂の難題に苦心して台本を書きかえる椿でしたが、皮肉にも台本はどんどん面白くなっていきます。そして二人の友情と攻防の決着が意外な形で訪れます。
本作はわずか7日間の出来事を描いており、映画の大部分は取調室での二人のやり取りに終始します。カタブツで全く喜劇というものに理解を示さない検閲官、向坂と無理難題に苦しみつつもより面白い台本を書こうとする椿、いつしか二人の関係は検閲官と劇作家という枠を越え、共に完璧な台本を作り上げていきます。この二人の台本をめぐる攻防が大変、面白いです。生真面目そうな向坂と上演許可をもらうために必死の椿が、台本中の実にくだらないセリフについて大真面目に議論するさまがとても愉快です。また厳格で容赦ない検察官である向坂が、少しずつ今まで自分の知らなかった喜劇の世界に取り込まれていく様子と、本来敵対する立場である二人の間に互いを認める感情が芽生えていく様子が丁寧に描かれており、人間ドラマとしても素晴らしい出来栄えだと思います。
本作はとても高い評価をえた同名舞台の映画化作品です。原作・脚本は「ラヂオの時間」「古畑任三郎」で有名な三谷幸喜。監督は同じく「古畑任三郎」の星護です。検閲官向坂は役所広司、作家椿は稲垣吾郎が演じています。映画のほとんどがこの二人のやりとりに終始し、この二人の演技力・キャラクターが本作で大変大きなウェイトを占めています。
役所広司の生真面目そうな風貌はカタブツの検察官にピッタリですし、深みのある演技で向坂の心情の変化を見事に演じています。相手役である稲垣吾郎も無理難題に困る作家を好演しています。黙っていれば文句なしの男前である両者が必死の面持ちでくだらないセリフについて激論を交わす様子はとても愉快です。原作の舞台の印象から、本作を観る前は稲垣吾郎のキャスティングには疑問を感じていたのですが、観てみると意外にこれがピッタリ。どうも彼はこういう虐められる役が似合っているようです。(笑)
さて、メディア規制法など多少の問題はあるものの、大筋において現在の日本では表現と発言の自由が守られています。誰もが自分の考えを自由に述べることが出来る社会は素晴らしいと思います。私は今の日本に検閲などという制度が無いことを心から幸せに思います。
なによりも、もし検閲があったなら、この映画猿のような駄文は皆様の目に触れることがなかったかもしれませんからね。
CINEMA DATA
2004年制作
【配給】 | 東宝 |
---|---|
【監督】 | 星護 |
【原作・脚本】 | 三谷幸喜 |
【出演】 | 役所広司 |
稲垣吾郎 |
フジテレビ 東宝 パルコよりDVD発売中
©Eiga-zaru 2004-2018
※掲載している情報は、2007.09.01の情報です。
そのため記載内容が、最新のものと異なる場合があります。
映画猿 バックナンバー
- LOVERS(2007.08.01)
- 許されざる者(2007.07.01)
- インディ・ジョーンズ 最後の聖戦(2007.06.01)
- アラジン(2007.05.01)
- CUBE(2007.04.01)
- キル・ビル(2007.03.01)
- ハリー・ポッターと賢者の石(2007.02.01)
- バロン(2007.01.01)
- ターミネーター(2006.12.01)
- スパイダーマン2(2006.11.01)
- ミッドナイト・ラン(2006.10.01)
- モンスターズ・インク(2006.09.01)
- ラストサムライ(2006.08.01)
- ポルターガイスト(2006.07.01)
- レオン(2006.06.01)
- アメリ(2006.05.01)
- バットマン(2006.04.01)
- ロスト・チルドレン(2006.03.01)
- フォーンブース(2006.02.01)
- レインマン(2006.01.01)
- 少林サッカー(2005.12.01)
- ナイトメア・ビフォア・クリスマス(2005.11.01)
- スティング(2005.10.01)
- 英雄~HERO~(2005.09.01)
- プライベート・ライアン(2005.08.01)
- ラヂオの時間(2005.07.01)
- ファインディング・ニモ(2005.06.01)
- ブルース・ブラザース(2005.05.01)
- パイレーツ・オブ・カリビアン(2005.04.01)